こだわり1
完熟ぶどうでつくる完全無添加のワイン
フランスのロワール地方の白ワインの銘醸地、「サンセール」からロワール川を渡り、同じく銘醸地である「プイィ フュメ」の丘に向かう途中に、ドメーヌ(自社畑のぶどうのみからワインをつくる、比較的小規模な生産者)「アレクサンドル バン」があります。
サンセールやプイィ フュメは、ふどうの品種「ソーヴィニヨン ブラン」の銘醸地として仏国内でも名を馳せるワイン産地です。
しかし、その強力なブランドが故に、真摯なマーケティングや品質追求がなくとも、ある程度のクオリティのワインであれば売るのに困らないという状況がありました。その環境によって生産者が保守的な思考になっているとも言われました。
そんな中に登場したのが、異端児アレクサンドル バンです。
例えば、アレクサンドル バンの、完熟したぶどうでつくるというスタイル。
一般的な醸造学校では、ソーヴィニヨン ブランを使ったワインづくりの基本として、早い時期に収穫することや、収穫量をある程度多くすることなどを教わると言います。しかし、他の産地ではぶどうのバランスの良い成熟度が重要視されています。なぜソーヴィニヨン ブランだけが青くて酸っぱい状態で収穫しなくてはならないのか、ということに彼は疑問を持ちました。
また、ワインの原料のぶどうには化学合成農薬や化学肥料の使用が当たり前で、醸造の過程では培養酵母、亜硫酸の使用も一般的。それらを使わないとその土地のワインだと認められない状況でした。
「本物は、よりピュアなワインづくりから生まれる。」
その結論に至った彼は、自分たちのワインづくりを突き進みます。
畑で除草剤や殺虫剤、化学肥料などの化学物質を用いずに有機栽培でぶどうを育て、粒が小さくエキス分の凝縮したぶどうを得るために収穫量を制限しています。さらに、完熟しつつもバランスの良い酸を備えたぶどうを得るために収穫時期を遅らせます。
そのため、一部のぶどうにボトリティス菌 (貴腐菌) が付くこともありますが、その貴腐菌がついたぶどうも含めて収穫し、濃密な果実味と品の良い酸、繊細なミネラル感を備えた味わいを生み出しました。
また亜硫酸も使用しておらず、その土地で生きる自然酵母の力のみでの発酵を重視しています。こうした従来の概念を超えた、真に土地に根ざしたワインをつくり続けています。
こだわり2
土への負担に配慮し畑を愛馬で耕す
現代では畑を耕すときにトラクターを使うのが一般的ですが、このワインを生み出す畑の区画は、彼の愛馬2頭のみで行い、トラクターを用いません。
馬で耕すことは、非常に手間も時間もかかる作業で効率がよくありませんが、重いトラクターによる作業が土に与える影響などを優先し、アレクサンドル バンは他の区画もできる限りの面積を馬で耕したいと考えています。
つくり手
フランスの自然派ワインを代表するドメーヌ
アレクサンドルは1977年生まれ。子供の頃、農業をしていた祖父を見て興味を持ち、農業学校に進みました。農業とは関係のない仕事をしていた父がナチュラルワインのファンだったことから、ワイン造りにも興味を持つことに。
卒業後にブルゴーニュや南仏を始め、カリフォルニアのワイナリーでも研修を積み、有名ドメーヌで醸造長を務めた後、2007年に畑を購入して独立しました。
5haほどの広さから始めたワイン造りも現在は11haほどの広さになり、中生代ジュラ紀後期の地層であるキンメリジャンやポルトランディアン土壌を備えた畑から印象的な味わいのワインを生み出しています。
冷静でありつつも熱く闘志を燃やすタイプの彼は、保守的なフランスワインの中で異端児と言われながらも、自身のこだわりを追求し続け、近年ではメディアや著名なワイン資格者に紹介されるなど、フランスの自然派ワインシーンを代表する造り手として認知されるようになりました。
その土地のぶどう、その土地の酵母のみで純粋なワインを生み出すことこそが、アレクサンドル バンの表現であり、私たちへのメッセージです。農業が大好きな彼は、畑にいることを本当に楽しんでいるように見えます。
「ワインは大地と人をつなぐ、一番素晴らしいもの」
こう語るアレクサンドルの顔は、自信と希望に満ちあふれています。